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大阪高等裁判所 昭和53年(行コ)15号 判決

控訴人

ユニ・ゴールデン株式会社

右代表者

上村勝三

右訴訟代理人

岩田喜好

西出紀彦

被控訴人

大阪府収用委員会

右代表者会長

大阪谷公雄

右指定代理人

大野敢

ほか三名

被控訴人

大阪市長

大島靖

右指定代理人

森本治臣

喜多明広

主文

一  控訴人の被控訴人委員会に対する控訴を棄却する。

二1  原判決中控訴人の被控訴人市長に対する予備的請求に関する部分を取消す。

2  前項に関する部分を大阪地方裁判所に差戻す。

3  控訴人の被控訴人市長に対するその余の控訴を棄却する。

三  一および二3に関する控訴費用は控訴人の負担とする。

事実《省略》

理由

一当裁判所も、控訴人の被控訴人市長に対する主位的請求の訴は不適法であり、被控訴人委員会に対する主位的請求は失当であると判断する。その理由は、次に記載するほか、原判決一四枚目表二行から二三枚目表四行目までに説示されているところと同一であるから、これを引用する。〈中略〉

二控訴人の被控訴人委員会に対する予備的請求の訴の適否についてみるに、右請求が損失補償に関する訴であることが明らかであるところ、損失補償に関する訴は、土地所有者が提起する場合起業者を被告としなければならない(土地収用法一三三条二項)のであるから、被控訴人委員会に対する右の訴は、当事者適格を欠くものとして不適法であるといわなければならない。

三控訴人の被控訴人市長に対する予備的請求の訴の適否についてみるに、右請求が損失補償に関する訴であることは明らかであつて、損失補償に関する訴は、裁決書の正本の送達を受けた日から三月以内に提起しなければならないのである(土地収用法一三三条一項)。ところで、〈証拠〉によれば、本件収用裁決書の正本が控訴人に送達されたのは昭和四三年八月六日であることが認められ、一方本件予備的請求が昭和四六年六月九日原審に提出された準備書面によつて追加して申立てられたものであることは記録に照らして明らかである。予備的請求は主位的請求とは別個の訴であつて、予備的請求追加の申立がされた時に訴の提起がされたものといわなければならないから、本件予備的請求の訴は出訴期間が経過したのちに提起された不適法な訴であるようにみえる。しかしながら、控訴人は、本件収用裁決書正本が送達された前記昭和四三年八月六日から三月以内である同年一〇月二九日被控訴人らに対し主位的請求の訴を提起し、被控訴人委員会に対しては、収用裁決の取消を求め、被控訴人市長に対しては、不法行為にもとづく損害賠償ないしは土地返還に代る填補賠償として、控訴人が本件裁決書記載の収用時期である同年八月二八日当時の本件土地の価格と主張する六二、一二五、七〇五円から受領ずみの本件収用裁決による本件土地の損失補償金三二、三一一、九八六円を控除した残二九、八一三、七一九円(およびこれに対する遅延損害金)の支払を求めていたのであつて、〈証拠〉によると、控訴人は本件収用手続において本件土地の価格として右の六二、一二五、七〇五円にほぼ見合う六九、一九三、四七六円を主張していたことが認められる。損失補償に対す不服は実質的には収用委員会の裁決の変更を求めるものであるのに、法がその再審査を経ることなく被収用者・起業者間の訴提起を認めるなど格別の規定をもうけているのは、損失補償の問題が事柄の性質上裁判所による客観的判断に適するものであるからとくに行政庁に再審査の機会を与える必要がなく、また、損失補償の問題は、裁決の取消が問題となる場合のように公益に関するところが少なく、公益よりも専ら起業者と被収用者間の利害に関するものにすぎないことにもとづくものと解される。収用委員会の裁決についての審査請求においては、損失補償についての不服をその裁決についての不服の理由とすることができないと定められている(土地収用法一三二条二項)のはそのためであり、したがつて、収用委員会の裁決の取消を求める訴においても損失補償額の不当は裁決取消の理由にはならないのである。本件において、控訴人が被控訴人委員会に対する主位的請求である裁決取消請求の請求原因として損失補償額についての不服を主張していないのはそのためであるにすぎず、だからといつて、控訴人に損失補償額を争う意思がなかつたものと速断することはできない。むしろ、控訴人は、被控訴人市長に対する主位的請求において、裁決が違法であることを前提として被控訴人市長に対し裁決書記載の収用時期における本件土地の価格と主張する金額と実際の損失補償額との差額の支払を求めているのであつて、この差額金の支払を求めている点に着目し、前認定の事実および弁論の全趣旨に照らすと、控訴人は右主位的請求の訴を提起した当時すでに被控訴人市長に対し実質的に右の損失補償額を争う意思を表明していたものと認めるに充分であり、控訴人が当初において被控訴人市長に対して損失補償額の増額という形で請求を構成しなかつたのは裁決の違法を前提としていたからにすぎないものと認められ、本件土地収用手続以来の相手方当事者である被控訴人市長としては主位的請求の訴提起の当時において控訴人の右意思を看取しえたものと認められる。上記のとおり、損失補償に関する訴は起業者と被収用者間の問題に帰着し、それに関する出訴期間の定も、裁決処分の存在自体に関わるものではなく、ひつきよう右当事者間の法律関係の安定をはかるためのものにすぎないと解されるのであつて、このようなところからすると、本件における予備的請求の訴は出訴期間が経過したのちに提起されているが、出訴期間の関係においては、当初の主位的請求の訴提起の時から提訴されていたものと同様に取扱うのが、被収用者の意思に合致しその利益を保護するゆえんであり、そのように取扱つても格別起業者の利益その他法的安定を損うことがないことなどに照らして、相当であり、本件予備的請求の訴は出訴期間遵守の点において欠くるところがないと解すべきである。

なお、被控訴人市長は、被控訴人委員会に対する収用裁決の取消請求と起業者である被控訴人市長に対する収用補償金請求はいわゆる関連請求にあたらず、また主観的予備的併合の関係にあるから不適法であると主張するが、上記のとおり、控訴人は、被控訴人市長に対し、主位的請求として損害ないし填補賠償の支払を求め、予備的請求として増額された損失補償金の支払を求めているのであるから、被控訴人主張の右主張は採用することができない。

四そうすると、原判決が被控訴人委員会に対する主位的請求を棄却し、予備的請求の訴を却下したのは相当であるから、被控訴人委員会に対する控訴は棄却すべきである。また、原判決が被控訴人市長に対する主位的請求の訴を不適法として却下したのは相当であるが、予備的請求の訴を不適法として却下したのは失当であるから、原判決中右予備的請求に関する部分は取消を免れず、右部分は民訴法三八八条により原審に差戻すべきであるが、被控訴人市長に対するその余の控訴は棄却すべきである。よつて、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(朝田孝 富田善哉 川口冨男)

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